2019年8月7日水曜日

緊急人道支援の枠組みについて【クラスター制度】


皆様お久しぶりです。気づけば夏まっただ中でものすごい気温になりつつありますが、いかがお過ごしでしょうか。令和の夏ヤバいですね。

私は一か月ほど前に日本に帰国し、今は仕事をしつつ留学準備をしてい(ることになってい)ます。この9月から一年間イギリスのブラッドフォード大学で「平和・紛争・開発(Peace, Conflict and Development)」という修士コースを受講予定です。


(ブラッドフォード市庁舎 Wikipediaより)

何といっても英語の本場イギリスの大学院への留学なので、今のうちから英語の勉強をしておかないといけないわけですが、私はもともと語学が好きじゃないのもあり何かもう全然やる気が出ない。。。というのが最近の現状です。困ったものですね。
加えて先日、勤め先の部長から「大事なのは自分の中に伝えたい内容があるかどうかだから、最悪英語力は無くても何とかなる」(※超意訳)というありがたいお言葉を頂いたので、部長がそう言うならもうやんなくていいかなぁという感じになってきており……なんてことを言うと流石に怒られそうですね。


さて前置きが長くなりましたが、今回は緊急人道支援の基本システムであるクラスター制度と、そこに関わる組織について話をしたいと思います。これまでの記事に比べると、緊急人道支援の分野で将来働きたいと考えている人向けかもしれないです。
私自身そんなに詳しいわけではないですが、自分の頭を整理するためにも一度まとめてみようということで今回ブログに書くことにしました。

この「クラスター」、英語で書くとclusterですが、直訳すると群れや集団という意味になります。平たく言うとグループですね。
緊急人道支援活動のなかには保健(医療)や水衛生、住居などいろいろな分野があるわけですが、それぞれの分野ごとにクラスターというグループを作って、同じ分野で活動する団体同士お互いの情報を共有して活動内容を調整しましょう、という仕組みがクラスター制度になります。

お互いの活動内容を調整するというのは、一般的な企業の視点から見ると少し奇妙に感じるかもしれません。営利企業は他社より少しでも多く利益を出すことが求められているため、ライバル企業と話し合って事業の内容を決めるなんてとんでもないと言われそうです。ですが人道支援の場合は営利企業と違い、必要な支援を必要とする人々に届けることが最優先です。それをどこの団体が実施するかは本来あまり重要ではありません(実際はそれでも縄張り争い的なことが発生したりするわけですが……)。そのため、ある地域にだけ支援が集中して別の地域には全く行き届かない、といった支援の重複や漏れが起こらないよう、実施団体の間で協力していく必要があるわけです。

機関間常設委員会(IASC)というところが出しているガイドブックによると、クラスターは以下の11個に分かれています。さらにそれぞれのクラスターにはクラスターリードという取りまとめ役の団体が決められているのですが、参考までにそれもカッコ内に記載しました。
①保健(WHO)、②水衛生(ユニセフ)、③食糧(WFP, FAO)、④住居(IFRC※, UNHCR)、⑤保護(UNHCR)、⑥教育(ユニセフ、セーブ・ザ・チルドレン)、⑦栄養(ユニセフ) 、⑧キャンプ運営(IOM, UNHCR)、⑨早期回復(UNDP)、⑩ロジスティクス(WFP)、 ⑪緊急時通信(WFP)
※IFRC=国際赤十字赤新月社連盟

ちなみに、クラスターの代わりに「セクター」という言葉を使うこともあります。私もこの記事用に調べていて初めて知ったのですが、この二つは厳密には違っていて、調整役としての責任をクラスターリードが負う場合をクラスター、現地政府が負う場合をセクターと呼ぶそうです(出典はこちら)。ですが、同じ分野で活動する団体間の調整メカニズムという意味ではどちらも同じです。
また、全ての人道支援活動地でクラスターやセクターが立ち上がっているわけではありません。これはあくまでも各団体間(特に国際的な支援団体間)の調整の仕組みなので、逆に言えば海外からの支援があまり入っていないような場所では要らないことになります。実際、私がこの間までいたインドネシアのロンボク島にはこうした制度はありませんでした。その場合は、各団体が自分たちで個別に現地政府や住民の方々と調整しながら進めていきます。

ここまで「調整」という言葉を再三使ってきましたが、では具体的にどんなことをしているのか?という点について、バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプを例に説明します。
(※なお、現場の状況はその時々によって変わるので、これはあくまで私が現地にいた2017年12月~2018年10月頃の情報を基にしていることを念頭に置いておいてください。また、バングラデシュの場合厳密にはクラスターではなくセクターになります。)

(バングラデシュ、コックスバザールの難民キャンプ。2018年10月撮影)

私は保健・医療分野での事業を担当していたのですが、保健セクターでは毎週水曜日にミーティングを行っています(ちなみに、このミーティングについては前回の記事でも「調整会議」という名前で少し紹介しています)。
バングラデシュ政府とWHOそれぞれの担当者が共同で運営しているもので、赤十字、国境なき医師団、マレーシア病院、BRAC(バングラデシュの大手NGO)など色々な団体が出席していました。参加人数はその時にもよりますが、多いときでは50人近くにもなり立ち見が出る日もありました。
これだけ大勢の人が参加しているので、その場で全員で話し合って何かを決めるというよりは、事前に設定されたアジェンダについて担当する団体が発表と質疑応答を行うというスタイルでした。
発表の内容は、感染症に関する最新情報の共有、キャンプ内のどの地域で支援が不足しているか、モンスーンへの対応、ワクチン接種キャンペーンについて、現地スタッフ向け医療トレーニングの案内など多岐に渡ります。
ミーティング議事録や関連資料はオンライン上で公開されていますので、関心のある方はこちらから読んでみてください。

ミーティングに参加する以外に、各団体は定期的に自分たちの活動について報告することが求められます。4Wという活動全般に関する報告と、EWARS(Early Warning, Alert and Response System)という感染症対策のためのシステム上での報告の2つを提出していました。
各団体が提出した情報は保健セクターの担当者が集計し、関係者全員がインターネット上で確認できるようになっています。それらの情報に基づいてキャンプ内の医療施設マップなども作成されていてかなり便利です。
また、薬や医療器具などが不足した場合にWHO等から物資を支給してもらえたり、逆に支援が手薄なエリアで新たに活動をしてもらえないかとセクター運営側から個別に打診されることもあります。日頃からミーティングに出席したり定期報告を上げたりすることでセクター内で存在が認知され、自分たちの事業を広げることにも繋がります。


私がクラスター制度について語れるのは今のところこれくらいですが、こうした支援の枠組みを踏まえたうえで、各個人はどのように将来働く場所や内容を決めていけばよいか?ということについて最後に少し触れておこうと思います。
私自身が今まさに自分のキャリアについて考えているところなので、駆け出しのぺーぺーの一人が抱いている今のところの印象、というくらいに思っていただけるとありがたいです。


国際機関とNGOとで比べると、やりたい分野や仕事内容が明確に決まっている場合はそれに特化した国際機関に入る方が良いのかな、と思っています。例えば保健・医療ならWHOや赤十字、食糧配布ならWFPなど。また、NGOの中でも国境なき医師団のように国際機関並みの影響力があるところもあるので、「国際機関/NGO」というよりは「大組織/中小組織」という分け方の方が適切かもしれません。
ちなみに、ここで言う「中小」はあくまで世界レベルで見たときの話です。私の所属先は日本の国際協力NGOの中では大きい部類に入りますが、それでも世界的に見て大組織ではないのでここでは中小に分類しています。

やっぱり大きな団体ほど活動規模も大きい傾向にあります。例えば我々の事業のターゲットはキャンプ内の1つのエリア+αくらいでしたが、WHOや国境なき医師団は広大な難民キャンプの全体をカバーしています。また、感染症の蔓延をキャンプ全体でどう防ぐか、というような話はクラスター/セクターのまとめ役であるWHOが中心となって対応していくことになります。

その一方で、大組織の場合は決められた分野以外のことは出来ない(WHOが井戸を掘ったりはしない)のに加えて、組織内の各個人の担当領域が明確に決められていて融通が利かないという印象があります。例えば、同じ「保護」の分野でもその中で「性暴力」と「難民コミュニティとの対話」とでは部署が完全に分かれていて、自分の担当分野以外のことは関心を持ったとしてもなかなか関われないという話を聞きました。
その点、中小のNGOはどんな分野や内容の活動でも、現地にニーズがあって自分がやりたいと思えば基本的にやらせてもらえるというのが最大の強みかなと思います。私の所属組織でいうと、水衛生や住居などで特に実績が多いものの特にその分野に限るということはなく、その時の状況に合わせて柔軟に支援内容を決めることが出来ます。
また、色んなことを自分一人でやる必要が出てくるので、様々な能力をバランスよく伸ばすことが出来るのも利点です。

……書きながら、「この辺の話って普通の大企業とベンチャーにも当てはまるのでは?」という気がしてきました。そう考えるとあんまり新鮮味のある話ではないかもしれませんが、まあ一般企業で言われていることが緊急人道支援でも成り立つんだなと思っていただければ。
あとは、これも普通の企業と同じですが、NGOも国際機関も団体ごとにカラーの違いが相当あると聞くので、最後はそれぞれの団体の人に個別に話を聞くのが一番かなと。特にNGOだと、その団体の理念に共感するかどうかはけっこう重要だなと最近感じています。


今回はなんだかちょっと固いというかニッチな話だったので、次回はもう少しやわらかい話を書こうかなと思います。駐在員は現地でどんな家に住んでるのか?とか。まあまだ何もかも未定なんですけれども。それではまた。

(先日訪れたマレーシア、ランカウイ島の夕焼け)

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