2019年2月10日日曜日

緊急人道支援NGOの仕事内容【イラク、バングラデシュ等々】


皆様いかがお過ごしでしょうか。私はようやく渡航準備が整い、約一か月ぶりにインドネシアに来ています。
数日前にジャカルタのインドネシア博物館に観光に行ったのですが、すごく充実していました。広い敷地内にいくつもの博物館やコモドドラゴンがいる爬虫類動物園?があり、特にある博物館で民族ごとの結婚衣装がずらっと並んでいたのは壮観です。一日では全然回り切れなかったのでもしがっつり見たいという方は2~3日確保されるのをおススメします。


(博物館内は撮影禁止だったので代わりに敷地内の水辺の写真。天候も良く絶好の観光日和でした)

さて観光の話はこのくらいにして、今回はようやくNGOで普段している仕事内容についてです。
うちの団体は日本をベースにするNGOの中ではかなり規模が大きく、活動内容も幅広いので全てを一つの言葉では説明できないですが、私の所属している海外事業部は「緊急人道支援」をメインに活動しています。
緊急人道支援とは、紛争や自然災害などの緊急事態が起こったときに、その被災者に対して行う支援活動のことを言います。レスキューのような人命救助も含まれますが、私たちの部署はむしろ住居や水、医療など「生活」全般に対する支援を主に行っています。
ちなみに、「開発支援」という言葉もありますがそれはまた少し違うものになります。「国際協力」と言うとこちらを思い浮かべる方が多いかと思いますが、開発支援は事業地の社会の中にある課題を当事者と一緒に解決していくというもので、緊急人道支援よりも長期的になることが多いのと、緊急事態の有無は関係ないという違いがあります(こんな説明の仕方をすると開発に詳しい方から「雑過ぎる!」と怒られそうですが、大目に見てもらえると嬉しいです。字数もないし)


2017年の7月に前職の証券会社(*)を辞めて今の団体に入ると、まず最初にイラク事業を担当することになりました。
(*)証券会社時代の話についてはこちらの記事参照。

ここで言う「事業担当」とは現地で事業を運営する駐在員ではなく、現地から上がってくる情報をもとに日本で様々な書類仕事を行ういわゆるデスクワーカーを指します。なので入って間もない新人の頃にいきなりイラクへ派遣された、というわけではありません(我らが部長はムチャ振りで有名なのですが流石にそんなことはしません)。
ちなみに何故イラクかというと自分で希望したからですが、実は特に強いこだわりがあったわけではないです。うちの団体の事業の中でイラクが一番規模が大きくて歴史も古いというのと、なんとなく「紛争地といえば中東」というイメージがあったというだけに過ぎません。同期や後輩の中には特定の国や事業に対して強い気持ちを持って入ってきた人もいますが、一方で私のようにあまり地域にこだわらない人も意外と多いです。緊急人道支援の場合は開発と違って大抵の人が数年のスパンであちこちの被災地に派遣されるからかもしれません。

デスク担当は通常複数の事業を担当するため、イラク事業を見る間にネパールの洪水被災者支援やパレスチナの生計支援も一時期だけ担当していました。そうして1か月ほど過ぎたころ、南アジアでロヒンギャ難民の大流出という事件が起こりました。
当時ニュースにもなりましたが、825日にミャンマー軍が国内の少数派であるロヒンギャ族の過激派と衝突し、そこから暴力の連鎖がロヒンギャの人々の住む地域に広がりました。そのためロヒンギャの人々が一斉に避難し、60万人以上が難民として隣国のバングラデシュへ押し寄せるという事態になりました。
これを受けてうちの団体はバングラデシュの難民キャンプで医療支援を行うことになり、その事業を担当することになりました。
バングラデシュでは団体としてそれまで事業を行ったことがなかったので、全てを一から作り上げることになります。そのためバングラデシュ事業に次第にかかりきりになり、当時イラクの方は情勢が悪化していて出張に行けなかったこともあって途中からほとんどバングラデシュ専任のような形になっていきました。

(バングラデシュの難民キャンプ。たくさんの家がひしめき合って建っています。)

このようにデスクの頃は色々な事業を担当しましたが、基本的にどの事業においてもデスクの主な仕事内容は一貫しています。それは、「現地駐在のサポートとドナー対応」です。
うちの団体が緊急人道支援活動をするさい、支援者の方々からの寄付に加えて外務省やジャパンプラットフォーム(*)という団体から助成金を頂いて事業を運営することがほとんどです。そして助成金を獲得するためには申請書の提出が必要で、かつ事業期間中の進捗報告や、終了後の会計報告や事業報告がドナーから求められます。それらのドナーへ提出する書類は基本的に現地駐在がドラフトを作成しますが、それらをチェックし、足りない情報があれば現地に確認して追記したり文章を修正したりして最終版を作成し、ドナーへ提出するのはデスクの役割です。また、提出後はドナーから色々な質問や要望が来るため、それらに窓口となって対応するのがデスク担当者となります。日本側で行う監査の準備・当日対応もデスクの仕事です。
(*)ジャパンプラットフォームはその名の通り「プラットフォーム」であって厳密には「ドナー」ではありませんが、簡単のためにここではそのように記載しています。

「どの事業地でも仕事内容同じなんだったら、一回経験すればあとは楽勝なんじゃないの?」と思われるかもしれません。確かに先にイラクなどの事業担当を通じて基本的なことを押さえていたので、バングラデシュ担当になったとき楽になった部分はあります。ただ、それはあくまで大枠が同じということであって、デスクの難易度は現場の状況によってだいぶ変わるというのが現在の私の実感です。
というのも、イラクのように長年やってきた事業地では既に会計や報告のシステムが日本側・現地側ともにきちんと出来上がっているので、基本的にはそれに沿って確認や修正を行えばよいということになります。
一方バングラデシュはというと、先に書いたように団体として初めての事業地で、かつ大規模な難民流出が起きてからまだ数か月しか経っておらず現場は相当混乱していました。さらに現地の提携団体も初めての提携相手であるため、お互いのルールを一つ一つ明確化していく必要がありました。
特に会計を見るのに初めかなり苦戦しました。デスクの仕事は本来現場から上がってくる会計データをチェックして予算消化の進捗管理や会計報告の作成をすることですが、そもそもそれをするための会計システムが整っていないため、それを一から整理するという任務が課せられました。もともと私は数字には自信があったのですが、特にこれまで業務として経理を担当したことはなく事業の運営に関わったこともないため、全体のお金の流れがなかなかイメージできない、という問題がありました。
それで結局どうしたかというと、当時東京事務所にいたベテランスタッフ二人に一から叩き込んでもらってなんとかかんとか身についた、という感じです。
余談ですが、このお二人どちらも他の事業地に配置転換する直前にそれぞれの事業の事情で渡航予定が延びていて、たまたまこの時期少し手が空いていたのでバングラデシュ事業を見てもらえた、という経緯があります。我ながら強運。


さて、ここまでデスク担当の仕事について色々書いてきましたが、正直地味やな~~っ!!って感じじゃないですか?ええ、全くもってその通りです()
「国際協力」とか「海外支援」というとやっぱり現地に行ってバリバリ活動するというイメージが強いですし、何といっても支援相手の顔が見えるので自分たちの活動が現地の役に立っているという実感を得やすいです。そのため「とにかく現場が好き!」という人は周りにも多いです。

ですが、私はデスクにはデスクの魅力や利点があると思っています。なかでも、いろいろな事業地を同時に見ることができるというのは駐在にはない魅力です。もちろん駐在先でも世界中の紛争や災害に関する情報を手に入れることはできますが、やっぱり目の前の事業にかかりきりになりがちです(もしかするとベテランの人はそんなことないのかもしれませんが…)。その点デスクだと複数の事業を受け持つため、仕事として半ば強制的に複数の地域に対してアンテナを張ることになります。
もう一つの利点は、日本の他のNGOやドナーについて知ることができるということです。これは特に私のような他業種から転職してきた人間にはありがたいです。
さらに、個人的には日本にいながら緊急人道支援ができるというのは結構大きいんじゃないかと思います。これはとにかく早く海外に行きたいという人には当てはまりませんが、逆にいきなり紛争地や被災地に行くのはちょっと…、という人や、何かしらの事情があってすぐには日本を離れられないような人であっても支援に携われる(それもかなり大きな割合で関われる)というのはもっとアピールされても良いのかなと思います。

私の場合は緊急人道支援の団体に入るのが初だったので、最初にデスクとして落ち着いて事業や手続きの流れを学べたのはかなり良かったなと感じています。入った当初はぶっちゃけ早く駐在になりたかったのですが、途中からまずデスクの仕事を一通り覚えてから駐在に行くという方針に変え、結果的に10か月ほど東京事務所で働きました(ちなみにうちの団体はわりと配属地や異動タイミングの希望を聞いてもらえる印象です)。

さて、本当はこの次に駐在の仕事について書いて、駐在とデスクそれぞれの違いや魅力を比較する予定だったんですが、気づいたらもう自分の中の目安である3500字をとっくに超えているわけです。あれおかしいな??
数字には自信あるんじゃなかったのかと突っ込まれそうですがそれとこれとは別の能力なので……ちなみに申請書は文字数制限がありません。

というわけで、駐在の仕事についてはまた次回にしたいと思います。ただ、日本で待機中だった先月と違ってもうインドネシア事業が動き出したので次いつ投稿できるかわかりませんが……。一応今月中の投稿を目標にしてますので、また良かったらお読みください。それでは。