2023年6月24日土曜日

日本の国際協力NGOを経験して考えたこと【またも転職活動中】

  梅雨真っ只中のこのごろですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私はタイトルの通り今日も元気に無職を満喫しております。

 「なんか前回もそんなこと言ってなかった?」という声が聞こえてきそうですが、はい、その通りです。去年の前半も転職活動をしており、ちょうど1年前くらいにとあるNGOに入ったのですが、諸般の事情によりそこを先日退職することになりました。今は絶賛転職活動中です(去年よりも頑張って色々受けていますが、そのぶん苦戦しています……)。

 退職に至る経緯を詳細に書き始めるとキリがないのでその代わりに、前職と前々職の2つの国際協力NGOで働くなかで見えてきた問題点について書いていきたいと思います。

 前職と前々職はどちらも日本に拠点を置く国際協力NGOですが、組織の規模やカルチャー、意思決定ラインなどはかなり違っています。同じNGOという業態でここまで違うのかと驚きましたが、一方で両者に共通する課題もあることに気づきました。

 「この課題は他のNGOにも当てはまるのでは?」と考え、思考を整理するためにも一度ブログにまとめてみようと思った次第です。(そういう意図なので、決して前の職場に対する不満をぶちまけたいというわけではないです笑。良いところも色々ありましたし。)

 NGOで働くことを考えている人はもちろん、国際協力業界に関心のある人にとって少しでもお役に立てば幸いです。

※ ちなみに、私がいたのはどちらも日本に本部があるNGOでした。聞いた話ですが、Save the ChildrenやWorld Visionなど、グローバルに展開している巨大NGO(いわゆるアライアンス系)の日本支部はだいぶ状況が違うようです。

〈散歩中に撮った紫陽花〉

課題は「戦略性の欠如」

 
 さて、では日本のNGOが抱えている課題とは何なのか?それは、一言で言うと「戦略性に欠ける」ことだと考えています。要するにいつも行き当たりばったりということです。

 事業の戦略を立てるとき、少なくとも次の2つの項目を考える必要があります。

事業内容:どの国のどの地域で、どういう分野・内容の事業をやるか。
資金源:事業のための資金をどう確保するか。

 特にNGOのように社会問題を解決することを目的としている組織であれば、「解決したい問題」がまずあり、そのためにどういう事業が最も効果的かを考え、必要なコストを算出し、その額をどうすれば調達できるか考える、つまり①事業内容→②資金源というのが本来あるべき順序です。
 しかし、実際は資金源ありきで事業が組み立てられていて、しかもその資金調達が行き当たりばったりで行われている、というのが私のいた組織の現状でした。

 NGOの資金調達の方法は大きく分けて「寄付」と「助成金」の2つがあります。助成金とは、外務省や国連、ジャパン・プラットフォームといった助成元に対して「こういう事業をやるので○○円ください」という内容を書いた申請書を提出し、審査を通過することで獲得できるお金のことです。
 助成金は申請した事業以外には使えませんし、活動の進捗を助成元に報告しなければならないなど、寄付金と違って色々な制限があります。それでも、私のいたどちらの団体も活動資金の多くは助成金でした。これは何と言っても一回の申請で得られる金額が寄付よりも大きいためです。数千万~数億円の事業資金が一回の申請で得られるのであれば、少額のクラウドファンディングを繰り返したりマンスリーサポーターを増やすため地道に努力したりするよりも手っ取り早いというわけです。

 一度に大きな事業資金を得られるというメリットのある助成金ですが、デメリットもあります。それは「一度きりの収入」であり、かつ「支出できる期間が決まっている」という点です。助成金はある特定の事業を行うという目的のもと受け取っているお金なので、その事業の終了後も活動を続けるためには次期事業のための申請を新たに行う必要があります。事業期間も申請時に決まっているので、多少は延長できますが基本的にはその期間内に予算を全て使い切らないといけません。
 そのため、助成金だけで回している場合、極端に言えば「今期は助成金が取れたから事業を実施するけれど来年以降どうなるかは分からない」という状況が延々と続くことになります。来年も助成金が取れれば事業を継続するが、そうでなければ縮小or撤退するというわけです(しかも大体それが決まるのは現在の事業が終了する直前だったりします)。

〈申請書作成のイメージ。いらすとやって便利ですね〉

行き当たりばったりだと何がまずいのか


 日本のNGOの現状について、戦略性がなく助成金ありきだと述べてきましたが、「そもそもそれの何がいけないのか?」と思った方もいるかもしれません。「行き当たりばったりでもなんでも事業をすることで現地の人々を助けられるなら、戦略なんてものに時間を使うより今やっている事業にしっかり集中すべきではないか。」と考える人は関係者の中にも多いです。そこで、戦略性が無いことでどういう問題が起こっているのかを以下に挙げたいと思います。

 まず第一に、「資金を集めやすい地域や内容にばかり支援が偏る」ということがあります。当然ですが、助成金には助成元の意向が強く反映されています。なので助成元にとって関心が高い地域の事業は助成金が獲得しやすく、そうでなければ難易度は跳ね上がります。例えば、ウクライナは去年他のどの国よりも多くの人道支援を受けましたが、同国と同じかそれ以上に紛争の被害が深刻な国はより少ない支援しか受けられていません。
 地域だけでなく事業内容や支援対象についても同様で、以前ブログに書いた「難民に支援が集中し地元民が置き去りにされる」という問題も、その原因の一つには助成元の意向があります。そのため、助成金ありきで事業を行っている限り、「支援を必要としているのに国際社会からほとんど注目されていない人々」はいつまでも取り残されるということになってしまいます。

 「現在の予算規模の範囲内で出来ることしかやらない」ことも問題です。本来は現地の課題に対してベストな解決策を実行すべきですが、予算が足りないためにその場しのぎの解決策を取ってしまう、ということがしばしばあります。
 例えば、ある村が水不足に陥っているとします。村には井戸が1つありますが、壊れていて使えないだけでなく、万全の状態だとしても村人全員をカバーできるだけの揚水量がそもそもありません。この場合、水不足を長期的に解決するには既存の井戸以外の水源を確保する必要があります(新しく井戸を掘る、他の村の井戸から給水パイプを引いてくるなど)。ですが新たな水源を確保できるだけの予算がなければ、今ある井戸を修繕して少しでも状況を改善するという方策が取られます。それでも何もやらないよりはマシですが、長期的に見れば問題は残り続けたままです。

〈ケニアの涸れ川(再掲)。アフリカには水不足に苦しむ地域が多数ある〉

 事業を通じて現地の課題を長期的に解決できたかどうか、言い換えると「事業が現地社会にどんなインパクトを与えたか」については、そもそも充分に検証や評価がされないことも多いです。何人に食料を配ったか/井戸を何基建設したかというような事業期間内で測れる短期的な成果は比較的簡単に評価できる一方、「それによって人々の栄養状態や水衛生状況がどう改善したか」というのはすぐに結果が出るものではなく、数年単位で経過を追っていく必要があります。ですが事業終了後に発生する費用は助成金によってカバーされないこともあり、こうした長期的インパクトの検証が行われることは稀です。
 緊急人道支援ならともかく、開発支援は社会の長期的な発展を目的としているので、「本当に現地の社会を変えられているのか?」という根本的なところが有耶無耶になっているのは見過ごせない問題です。

 さらに、資金調達が行き当たりばったりであることは人材戦略にも影響を及ぼしています。人件費も助成金から出ているため、どの国や事業地にどれだけ人を配置するかはどれだけ助成金が取れたかで決まることになります。助成金が取れるかどうかはもちろん提案書の質にもよりますが、一方で運の要素も大きいです。また、提案書の質も個人の力量で決まるというよりはチーム全体で作り上げる側面が強くあります。
 そのため特に若手のスタッフは、今期の事業で高い成果を出したけれど来期は助成金が無いために同じ事務所に残れない、という憂き目に遭うこともしばしばです。常に次のポジションを探さなければならないという点は国連も同じですが、国連は大抵の場合一回の契約で少なくとも1年はポジションが確保されるのに対し、NGOは解雇されることこそ稀な一方で配属については(少なくとも私のいた組織では)下手すると半年から一年未満で異動になることもあります。
 こうなると、成果を出したのに評価されないという不満が溜まりますし、半年先も見通せない状況が延々と続くこと自体ストレスになります。NGOでは若手職員の定着率が低いとよく言われますが、その原因の一つには「成果と配属が連動していないこと」があるように思えます。

〈思わずツッコまざるを得ない〉

 それでもお金がなければ事業も何も出来ないのだから仕方ないと言うのであれば、どうしたら充分な資金を集められるのかより一層考えて行動に移すべきです。
 なかでも、寄付金の獲得を増やすことはとても重要だと感じています。寄付金は助成金と違い受け取った団体が自由に使える資金なので、助成元や国際社会の意向に左右されずに事業を続けるための強力な手段となります。もちろんどのNGOも寄付金募集のための広報や渉外活動を行っているものの、その規模や成果は団体によってまちまちです。広報・渉外は私の専門ではないので具体的な手法の話はしませんが、そもそも組織のトップがその重要性を理解して必要なリソースを割くことが第一に求められます。
 また、助成金をメインの資金源にする場合でも、申請する本数を増やして助成元を多角化することでリスクを分散することは可能です。1つの助成元の資金で1つの事業しか行っていない団体はそこからの資金が途絶えれば撤退するしかありませんが、10の助成元から資金を獲得している団体は仮に2~3個取れなくなっても事業を継続することができるため、ある程度長期的な見通しをもって事業計画を立てられます。私のいた組織では(事業地によりますが)大抵1~2種類の助成元しか活用していなかったので、まだまだ改善の余地があります。

〈去年ナイロビ出張で撮った写真。向こうの植物は攻撃力が高そうな見た目をしている〉

戦略がなくても「生き残れてしまう」業界


 ここまで、日本の国際協力NGOの抱える課題について自分の経験を基に色々書いてきました。ですが、これを読んでいる方の中にはもしかしたら「一括りに『日本のNGO』と呼んでいるけど単にその2団体だけの問題じゃないの?現にうちの団体はちゃんとやっている」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。日本には数多の国際協力NGOがあるので、これらの課題にきちんと対処されているところも当然存在するだろうと思います。

 それでも、私はこれらの問題を日本のNGO業界全体に関わるものだと考えています。私のいた組織はどちらも設立からそれなりの年数が経っており、つまり戦略性がなくても今日まで組織として存続できています。これは言い換えると「戦略を立てて運営している団体は生き残り、そうでないところは衰退していく」という淘汰圧がNGO業界の中に存在しないということです。組織が立ち行かなくなるかもしれないという危機感がないので、「これまでと同じで良い」と考えてしまうのも無理はありません。
 淘汰圧があろうとなかろうと、問題解決にこだわって戦略を立てることは不可能ではないですし、実際そのようにされている団体があるとも聞いています。しかし、外圧がない中でそれを続けるにはマネージャー陣、特に組織のトップに相当強い意志が求められます。それは簡単なことではないので、現状そうした団体はレアだろうと予想しています。
 とはいえ、「優れた団体だけが生き残る」というシステムが良いかというと、それはそれで別の問題が生じそうなのが難しいところです。そもそも世界的に見て支援の量はニーズに対して全く足りていませんし、事業地レベルでみると「この村は一つの団体からしか支援を受けられていない」というケースがよくあり、そういう場合にその団体が淘汰されると村の人々は必然的に困窮してしまいます。なので安易に競争原理を持ち込むべきではないですが、「では淘汰せずに業界全体のレベルを上げるにはどうすればよいか?」という問いの答えはまだ見つかっていません。。。


 さて、長々書いてきましたが今回はこれで以上になります。なんだかずっと偉そうな感じになってしまいましたが、NGOで働いている人を責めることが目的ではないということは一応念押ししておきます(むしろ私自身が内部にいたので、その場にいながら変えられなかったことへの自戒という感じです)。
 NGOの事業戦略や資金調達について「うちではこうしてるよ!」という事例があれば是非お聞きしたいので、お気軽にご連絡頂けると嬉しいです。また業界全体の取り組みなどがあれば教えて頂けると助かります。今回は日本の話でしたが、他国ではどうなのかというのも気になっているところです。

 そんな感じで、またしばらくは転職活動とフランス語漬けの日々になりそうです。……なんかこう書くと本当に去年と全く同じことをしているようで笑えないのですが、実際やっている中身はけっこう違ってたりするので、落ち着いたころにそのあたりのことも書くかもしれません。それではまた。

〈先日個展を観に行った銀座・奥野ビル。なんだかんだ無職を楽しんでます〉