皆さまご無沙汰しております、いかがお過ごしでしょうか。私は昨年はNGO職員としてケニアで駐在をしていましたが、今年は予算の関係でケニア駐在の枠が無くなってしまったため、退職して今は日本で優雅に(?)無職生活を送っております。他の事業地の駐在枠などの打診もあったのですが、ケニアを含む東アフリカ地域に関わりたいという気持ちが自分の中で強かったので仕方なくお断りしました。
なので今回は、ケニアでどんなことをしてきたのか&どうして東アフリカにこだわるようになったのかについて書いていこうと思います。
〈赴任地で撮った写真。空が広くて日差しが強い〉
昨年の4月にケニアに赴任して首都ナイロビで一月ほど勤務した後、北西部のカクマというところに駐在しました。
カクマには30年続く難民キャンプがあり(※)、南スーダンやソマリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、ルワンダ、ブルンジなど近隣の様々な国からの難民を受け入れています。私のいたNGOはそこで主に水衛生と住居建設に関わる事業を行っていました。
(※)カクマから車で30分ほどのところにカロベエイ難民居住地区という場所もあり、カクマ難民キャンプとカロベエイ難民居住地区の両方で事業を行っています。煩雑になるのでこの記事内では区別せず書いています。
〈キャンプ内に設置した手洗い場と蛇口〉
〈汚染された水のボトルを子どもたちに差し出すが、もちろん誰も飲みたがらない〉
また、日本でも最近話題になった「生理の貧困」に関わる活動も衛生啓発に含まれます。布製の生理用ナプキンを配布するとともに、生理とは何か、ナプキンやタンポンをどう使うか、などを伝える講習を実施しました。「生理中に男性と会うと妊娠してしまう」といった誤解もあるので、ディスカッションを通じてそうした誤解を解くのも講習の目的です。
コロナ渦での支援ということで、感染症の予防行動に関する啓発も行いました。マスクを付けるよう呼びかける、ワクチン接種を促すなどに加えて、「アフリカ人はコロナにかからない」「コロナにかかると必ず死んでしまう」といった色々な誤解を払拭することも目指しました。
〈布製ナプキンの入ったポーチ、月経カップ、使い捨てナプキンなど。講習では実物を見せながら説明していく〉
〈コロナ対策の一環で正しい咳の仕方を伝えている元同僚〉
〈完成した住居。住む人数によって割り当てられるサイズが異なる〉
また、カクマが位置しているトゥルカナ郡全体が一昨年にサバクトビバッタという害虫の襲来を受けてしまい、牧草や農作物などに大きな被害が出ていました。そこで、害虫の生態や対処法についての講習と、牧草地の建設、農作物の種子配布などをトゥルカナ郡の様々なエリアで行いました。
〈収穫された牧草〉
こんな感じでカクマでは色々な事業の運営管理をしてきたのですが、難民の人々に対する支援は種類が豊富なだけでなく、啓発や技術支援にはなかなか高度な内容も含まれるというのを現地で実感しました。上で挙げた野外排泄防止の啓発などはどちらかというとベーシックな感じがしますが、例えば他団体がやっていた性暴力・家庭内暴力防止講習では「家族への暴力は『無差別な』『自分で制御できない』暴力ではなく、相手との力の不均衡を利用した選択的なもの(本当に無差別なら自分の家族だけでなく通行人や警察官にも殴り掛かるはず)なので、自分の感情を『制御する』ことが大切」といった内容を男性向けに啓発していました。日本にも家庭内暴力があることを考えるとこれは日本が真似しても良いのではないかという気がします。また、生理に関する講習は女性だけでなく男性に対しても行ったのですが、これも日本が見習える点がありそうです。他にも難民の若者に対してエンジニアリングや語学などのコースを提供する施設があるなど、「難民支援」と聞いてパッとは思いつかないようなサービスも難民キャンプ内で提供されていました。
〈生理についての講習でナプキンの使い方を実演する男性参加者〉
4年前に訪れたバングラデシュの難民キャンプと比べて、カクマは歴史が長いので単なる衣食住に留まらない支援がより一層必要とされている印象を受けました。難民キャンプが長く存続しているのはケニアの周辺国がずっと不安定な状態だからですが、シリアやイエメンなど人道支援を必要としている国や地域の多くも同じように紛争が長引いてしまっています。そのため、緊急で必要な支援を行う人道支援と、より長期的な社会の発展を見据えた開発支援をどう繋げるか、という点が海外支援業界ではよく議論になるのですが、カクマでは特にそれが浮き彫りになっているように感じました。
〈暮らしの中の衛生問題についての対話セッション。カクマでの生活が長くなることで、コミュニティの人々が自分たちの生活について話し合う場の必要性が高まる〉
また、国際社会からの支援が長期化していることで、難民と地元民の間にある不均衡や対立もより根深いように思えます。上で書いたように難民キャンプ内は比較的色々なサービスが充実しているうえに、第三国定住や留学などで経済的に発展した国へ移住するチャンスもあります(狭き門ですが)。一方カクマ地元民への支援は限定的で、ましてトゥルカナ郡のカクマ以外の場所に住む人々が海外からの支援を受けることはかなり稀です。害虫対策事業の視察でいくつかの村を訪問したとき、「初めて海外から支援してもらえた」という声を聞いただけでなく「干ばつのせいでこのままだと食べ物が無くなってしまう。どうやって乗り切ればいい」と言われたのは衝撃でした。キャンプ内では(減ってきているものの)食料配給があるので、この点でも難民キャンプの方が地元コミュニティよりも良い環境と言えます。
ただ、他国から逃れてきた難民と違い、ケニアの地元民に対する支援や地域開発は本来ケニア政府が行うものという原則があります。実際に現地政府はNGOや国連とともに人道・開発支援を行っていて、特にカクマのある西トゥルカナ副郡の担当者はとても仕事熱心な方で個人的に尊敬していますが、それでも足りていないのが現状です。そうしたなかで難民キャンプに支援が集中し地元民が後回しにされることは、「支援はそれを最も必要としている人へ」という人道支援の原則と合わないんじゃないか?と現地にいてかなりモヤモヤしました。
〈地元民の住居。上に載せた難民キャンプ内の住居よりも狭く耐久性がない〉
〈それぞれの民族の踊りを披露する人々〉
〈干ばつで痩せてしまったラクダ〉
〈大きな涸れ川。地域全体が深刻な水不足に直面している〉
そういうわけで東アフリカの駐在ポストを探し中ですが、あまり焦らずにむしろしばらく無職生活を送りながら色々と情報収集したいなと思っているところです。特に今後のキャリアについて、緊急人道支援よりも紛争を根本から解決することに関わりたいと思いつつ、具体的にどういう分野に進むかとかどういった紛争を対象にするかとかはわりと未定なので、じっくり考える期間にしようかと。
それとせっかく時間があるので、実務には直結しなさそうだけれど押さえておきたい分野についても調べるつもりでいます。なかでも長期的な人口推移と地域開発の関係が気になっています。アフリカはアジアよりも人口密度が低く(カクマはバングラデシュのキャンプほど密集してない)、そのおかげで衛生状態がある程度保たれている側面があるのではと思っているのですが、となるとこれから人口が増え続けるとまずいのでは、という問題意識です。こういう話が実際に影響してくるのは数十年先の未来なので普段の実務にはあまり関わらないかもしれませんが、地域開発のことを考えるのであれば知っておきたいなと思っています。
あとは語学ですね。コンゴ難民の人と会話できるようになりたいというのもあってフランス語の勉強を始めたんですが、なかなか道のりが険しい……。このあいだ受けたTCF(仏語版のTOEIC)があまりに出来なさすぎて自分で驚きました。人生で受けたペーパーテストの中で一番出来てないかもしれない (運はあまり強くないと思っているので4択でも外しまくってそう;;)。しかも日本にいるあいだ英語力もキープしないといけないわけですが、帰国中はこれが本当に困る。洋画を英語字幕で観るというのをよくやるので、おススメの洋画を教えてもらえると喜びます。
……なんか、こうして書くとやることが多い。もっと優雅に暮らすはずだったのにおかしいな??まあでもここ一か月半くらい優雅というよりは怠惰な生活になってしまっているので、いい加減に気合を入れ直した方が良いのかもしれません。上で書いたようなことに関連して良い文献などご存知の方がもしいれば教えて頂けるととても助かります。それではまた。
〈ナイロビのサファリ。大自然を感じられておススメです〉