2022年3月27日日曜日

ケニアでの駐在生活&近況について【無職を満喫中】

  皆さまご無沙汰しております、いかがお過ごしでしょうか。私は昨年はNGO職員としてケニアで駐在をしていましたが、今年は予算の関係でケニア駐在の枠が無くなってしまったため、退職して今は日本で優雅に()無職生活を送っております。他の事業地の駐在枠などの打診もあったのですが、ケニアを含む東アフリカ地域に関わりたいという気持ちが自分の中で強かったので仕方なくお断りしました。

 なので今回は、ケニアでどんなことをしてきたのか&どうして東アフリカにこだわるようになったのかについて書いていこうと思います。

〈赴任地で撮った写真。空が広くて日差しが強い〉


 昨年の4月にケニアに赴任して首都ナイロビで一月ほど勤務した後、北西部のカクマというところに駐在しました。

 カクマには30年続く難民キャンプがあり(※)、南スーダンやソマリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、ルワンダ、ブルンジなど近隣の様々な国からの難民を受け入れています。私のいたNGOはそこで主に水衛生と住居建設に関わる事業を行っていました。

(※)カクマから車で30分ほどのところにカロベエイ難民居住地区という場所もあり、カクマ難民キャンプとカロベエイ難民居住地区の両方で事業を行っています。煩雑になるのでこの記事内では区別せず書いています。


〈キャンプ内に設置した手洗い場と蛇口〉

 水衛生の分野には、上の写真のような水インフラ建設だけでなく衛生に関する啓発活動も含まれます。衛生と一口に言っても色々ありますが、カクマで大きな課題となっているのが野外排泄、つまり人々がトイレではなく建物の影や草むらなどの屋外で用を足してしまう問題です(もし食事中の方がいたらすみません;;)。何故そうなるかというと、トイレ自体の数が足りないことに加えて「そもそもトイレを使う習慣が根付いていない」という要因があります。そこで、コミュニティの人々や学校の子どもたちを集めて、地面に落ちている人糞からハエなどを介して病原菌が飲み水や食べ物に入ってしまう様子を実演する、という活動を行いました。参加者は皆さん顔をしかめたり驚愕の表情を浮かべていて、これまでの自分たちの生活が不衛生だったことに気づいてショックを受けている様子でした。このとき受けた衝撃が大きいほどその後の衛生的な行動に繋がっていくと考えられます。


〈汚染された水のボトルを子どもたちに差し出すが、もちろん誰も飲みたがらない〉

 ちなみに、この活動は私の赴任前から行われていて詳しい記事も書かれているので、詳細を知りたい方は「野外排泄 トリガリング」で検索してみてください。

 また、日本でも最近話題になった「生理の貧困」に関わる活動も衛生啓発に含まれます。布製の生理用ナプキンを配布するとともに、生理とは何か、ナプキンやタンポンをどう使うか、などを伝える講習を実施しました。「生理中に男性と会うと妊娠してしまう」といった誤解もあるので、ディスカッションを通じてそうした誤解を解くのも講習の目的です。
 コロナ渦での支援ということで、感染症の予防行動に関する啓発も行いました。マスクを付けるよう呼びかける、ワクチン接種を促すなどに加えて、「アフリカ人はコロナにかからない」「コロナにかかると必ず死んでしまう」といった色々な誤解を払拭することも目指しました。

〈布製ナプキンの入ったポーチ、月経カップ、使い捨てナプキンなど。講習では実物を見せながら説明していく〉

〈コロナ対策の一環で正しい咳の仕方を伝えている元同僚〉

 住居建設については、以前は建設自体をNGOがやっていましたが、今は難民の人々に現金を給付し、彼らが自分で業者と契約して建設するというやり方がカクマでは主流になっています。なので、住民向けの講習会を開いて業者の選定や契約の際に気を付けることを伝えたり、現場を視察して進捗を確認したり、現金を住民一人一人に送付したりといったことがNGOの仕事になります。住む人自身が家を建てることで建設にかかるコストの節約になるだけでなく、自分の好きなように細かいアレンジを加えることも出来ます。
〈完成した住居。住む人数によって割り当てられるサイズが異なる〉

 また、カクマが位置しているトゥルカナ郡全体が一昨年にサバクトビバッタという害虫の襲来を受けてしまい、牧草や農作物などに大きな被害が出ていました。そこで、害虫の生態や対処法についての講習と、牧草地の建設、農作物の種子配布などをトゥルカナ郡の様々なエリアで行いました。

〈収穫された牧草〉

 こんな感じでカクマでは色々な事業の運営管理をしてきたのですが、難民の人々に対する支援は種類が豊富なだけでなく、啓発や技術支援にはなかなか高度な内容も含まれるというのを現地で実感しました。上で挙げた野外排泄防止の啓発などはどちらかというとベーシックな感じがしますが、例えば他団体がやっていた性暴力・家庭内暴力防止講習では「家族への暴力は『無差別な』『自分で制御できない』暴力ではなく、相手との力の不均衡を利用した選択的なもの(本当に無差別なら自分の家族だけでなく通行人や警察官にも殴り掛かるはず)なので、自分の感情を『制御する』ことが大切」といった内容を男性向けに啓発していました。日本にも家庭内暴力があることを考えるとこれは日本が真似しても良いのではないかという気がします。また、生理に関する講習は女性だけでなく男性に対しても行ったのですが、これも日本が見習える点がありそうです。他にも難民の若者に対してエンジニアリングや語学などのコースを提供する施設があるなど、「難民支援」と聞いてパッとは思いつかないようなサービスも難民キャンプ内で提供されていました。
  
〈生理についての講習でナプキンの使い方を実演する男性参加者〉

 4年前に訪れたバングラデシュの難民キャンプと比べて、カクマは歴史が長いので単なる衣食住に留まらない支援がより一層必要とされている印象を受けました。難民キャンプが長く存続しているのはケニアの周辺国がずっと不安定な状態だからですが、シリアやイエメンなど人道支援を必要としている国や地域の多くも同じように紛争が長引いてしまっています。そのため、緊急で必要な支援を行う人道支援と、より長期的な社会の発展を見据えた開発支援をどう繋げるか、という点が海外支援業界ではよく議論になるのですが、カクマでは特にそれが浮き彫りになっているように感じました。
〈暮らしの中の衛生問題についての対話セッション。カクマでの生活が長くなることで、コミュニティの人々が自分たちの生活について話し合う場の必要性が高まる〉

 また、国際社会からの支援が長期化していることで、難民と地元民の間にある不均衡や対立もより根深いように思えます。上で書いたように難民キャンプ内は比較的色々なサービスが充実しているうえに、第三国定住や留学などで経済的に発展した国へ移住するチャンスもあります(狭き門ですが)。一方カクマ地元民への支援は限定的で、ましてトゥルカナ郡のカクマ以外の場所に住む人々が海外からの支援を受けることはかなり稀です。害虫対策事業の視察でいくつかの村を訪問したとき、「初めて海外から支援してもらえた」という声を聞いただけでなく「干ばつのせいでこのままだと食べ物が無くなってしまう。どうやって乗り切ればいい」と言われたのは衝撃でした。キャンプ内では(減ってきているものの)食料配給があるので、この点でも難民キャンプの方が地元コミュニティよりも良い環境と言えます。
 ただ、他国から逃れてきた難民と違い、ケニアの地元民に対する支援や地域開発は本来ケニア政府が行うものという原則があります。実際に現地政府はNGOや国連とともに人道・開発支援を行っていて、特にカクマのある西トゥルカナ副郡の担当者はとても仕事熱心な方で個人的に尊敬していますが、それでも足りていないのが現状です。そうしたなかで難民キャンプに支援が集中し地元民が後回しにされることは、「支援はそれを最も必要としている人へ」という人道支援の原則と合わないんじゃないか?と現地にいてかなりモヤモヤしました。
〈地元民の住居。上に載せた難民キャンプ内の住居よりも狭く耐久性がない〉

 難民キャンプ内に話を戻しますが、カクマにはかなり多種多様な国や民族の人々が住んでいます。国籍が多様なだけでなく、例えば同じ南スーダン難民でもディンカ人、ヌエル人、アチョリ人、バリ人、ロピット人、……と色々な民族に分かれていて、それぞれが独自の言語や文化を持っています。しかも、母国では対立している民族同士であっても、難民キャンプ内では基本的に共存が成り立っています。私たちが講習を行うときも特に民族ごとに分けたりはしませんし、ディンカとヌエルは南スーダン内戦の二大派閥ですが、ディンカ人の知人曰く彼女にはヌエル人の友人も沢山いるとのことです。これを知ったときは驚きました。カクマに来る以前は「対立している民族同士が顔を合わせたら殴り合うか、少なくとも緊迫した空気にはなるだろう」と勝手に思っていたのですが現実は全く異なっていました(とはいえ少しもわだかまりがないというわけではないようですが……)。現地で難民の人々から色々な話が聞けたおかげで多少なりとも東アフリカ地域の紛争の理解が深まったので、このタイミングで全く違う地域に移ってしまうのはもったいない、というのが東アフリカにこだわっている一番の理由です。

〈それぞれの民族の踊りを披露する人々〉

 それに加えて、アフリカの地方部(田舎)が抱える問題は充分な支援があれば解決するものが多そうだと思ったのもあります。こんなことを言うと長年活動されている方からそんなに簡単ではないと叱られそうですが、支援の量が足りていないのは確かだと思います。トゥルカナ郡の地元の人々が干ばつのせいで食料難に直面していると書きましたが、水不足は家畜の健康を悪化させるため、異なる民族同士で家畜の奪い合いに発展することがあります。特に近年では銃などの武器が使われることで暴力がエスカレートする危険性を孕んでいます。
 
〈干ばつで痩せてしまったラクダ〉

 こうした小規模な武力紛争が特にケニア-ウガンダ間やケニア-南スーダン間の国境地域で頻発しているのですが、この紛争は井戸さえ掘れば解決するのではという気がしてなりません(地下には水の層があるので)。なのにそれが実現していないのは、この問題が国際社会からほとんど注目されていないからだろうと思います。言ってしまえば「辺境地域での小競り合い」なので、世界情勢どころかケニアの中央政府にも大して影響しないと考えられているのかもしれません。ですが国境地域で銃が出回っていることが南スーダンの紛争に影響を与えているとも言われており、東アフリカ地域全体の長期的な安定を考えるなら無視できない問題だと考えています。なので、この地域やこの問題に対してどうやって資金を引っ張って来るか?が重要なポイントになります。これまであまり支援が入っておらず物価も安いので、多額の資金を投入しなくても効果が出るのではと推測しています。見過ごされてきた地域の紛争解決と発展に貢献するというのはやりがいがありそうだな、というのがアフリカにこだわっているもう一つの理由です。
〈大きな涸れ川。地域全体が深刻な水不足に直面している〉

 そういうわけで東アフリカの駐在ポストを探し中ですが、あまり焦らずにむしろしばらく無職生活を送りながら色々と情報収集したいなと思っているところです。特に今後のキャリアについて、緊急人道支援よりも紛争を根本から解決することに関わりたいと思いつつ、具体的にどういう分野に進むかとかどういった紛争を対象にするかとかはわりと未定なので、じっくり考える期間にしようかと。  
 それとせっかく時間があるので、実務には直結しなさそうだけれど押さえておきたい分野についても調べるつもりでいます。なかでも長期的な人口推移と地域開発の関係が気になっています。アフリカはアジアよりも人口密度が低く(カクマはバングラデシュのキャンプほど密集してない)、そのおかげで衛生状態がある程度保たれている側面があるのではと思っているのですが、となるとこれから人口が増え続けるとまずいのでは、という問題意識です。こういう話が実際に影響してくるのは数十年先の未来なので普段の実務にはあまり関わらないかもしれませんが、地域開発のことを考えるのであれば知っておきたいなと思っています。
 あとは語学ですね。コンゴ難民の人と会話できるようになりたいというのもあってフランス語の勉強を始めたんですが、なかなか道のりが険しい……。このあいだ受けたTCF(仏語版のTOEIC)があまりに出来なさすぎて自分で驚きました。人生で受けたペーパーテストの中で一番出来てないかもしれない (運はあまり強くないと思っているので4択でも外しまくってそう;;)。しかも日本にいるあいだ英語力もキープしないといけないわけですが、帰国中はこれが本当に困る。洋画を英語字幕で観るというのをよくやるので、おススメの洋画を教えてもらえると喜びます。
 ……なんか、こうして書くとやることが多い。もっと優雅に暮らすはずだったのにおかしいな??まあでもここ一か月半くらい優雅というよりは怠惰な生活になってしまっているので、いい加減に気合を入れ直した方が良いのかもしれません。上で書いたようなことに関連して良い文献などご存知の方がもしいれば教えて頂けるととても助かります。それではまた。
〈ナイロビのサファリ。大自然を感じられておススメです〉

0 件のコメント:

コメントを投稿