2012年12月15日土曜日

フィリピンの刑務所見学【実は意外と清潔】


(2019/4/28追記)
読み直してみたところ、当時のテンションや読みづらい文体・構成等々が目に余ったので文章を全体的に修正しました。内容は変えていません。
(追記終)

こんにちは。みなさんいかがお過ごしでしょうか。
気づけば前回からけっこう間が開いてしまっていますね……就職活動中で時間を確保しづらくはあるのですが、少なくとも月一では更新していきたいなと思ってます。

今回は、フィリピン留学中に見学しに行った女性刑務所の話です。他の記事と比べると少し真面目度が高いかもしれません(それでも心持ち、という程度ですが)。
ちなみに、悲惨で凄惨な話などは出てきません。どちらかというと逆かと思います。ですので心臓の弱い方もご安心ください。


2012年9月3日、フィリピン大学から車で1時間ほどのマンダルヨンという場所にある女性刑務所(正確には女性更生施設:Correctional Institution for Women)へ見学に行くことになりました。

そもそもなぜ刑務所を見学することになったのかというと、私の住んでいた寮のボス的存在(お母さん的存在でもある?)の寮生がツアーを企画してくれたためです。
フィリピン大学に来ている留学生は私を含めフィリピンの社会問題に興味のある学生が多く、このツアーにも多くの寮生が参加しました。
また、この刑務所側もそういった学生の来訪を歓迎していて、毎年一度はフィリピン大学のソーシャルワーク学部の人が見学に来ているとのことです。





まず始めに、この刑務所で行っている色々なプログラムについてソーシャルワーカの方からお聞きしました。

「更生施設」という名前の通り、収容者をただ罰するのではなく彼女たちが施設を出た後社会に復帰できるようにという考え方で運営されています。

フィリピンの刑務所というと「笑いのヨガ」をご存知の方もいるかもしれませんが、その他にも色々なプログラムがあるとのことです。例えば教育プログラム(ALS)を修了すると、通常の学校を卒業したのと同じ資格が与えられます。職業訓練プログラムにはオフィスワーク、キッチン、清掃、ハンドメイド小物の制作、ネイルアートなど様々な種類がありで、収容者は自分の好きなものを選べます。レクリエーション、宗教的なプログラムなどもあります。



次に、収容者の方に直接お話を聞かせて頂きました。
私たちのグループは2人の方にインタビューを行いました。Aさんは今この刑務所内で教育プログラムを受けていて、ここで高卒認定をとって出所後は大学に行きたいとのことでした。もう一人のBさんは、出所後は子供の世話をして暮らしたいとのことです。

この施設では色々なイベントが開催されていますが(なんとミスコンもあるらしい)、お二人とも1年で一番ハッピーなのはクリスマスだと仰っていました。

クリスマスは日本では「カップルの日」というイメージが強いリア充への怨念に満ちた日ですが、フィリピンでは国全体を挙げてのお祭りです。1年で1番気合が入るときです。その気合たるや、9月から年末までの4か月間ずっとクリスマスシーズンにしてしまうほど。1年の3分の1がクリスマス、クリスマス大好きフィリピン人

(イメージ画像)

そういうわけで、やはり刑務所の中でもクリスマスは一大イベントのようです。加えて、クリスマスの日は収容者の家族も1日施設内に居ることができるため、お二人にとっては子供たちと一緒に過ごせる特別な日です。

一通りお話を聞いて感じたのは、「犯罪者といってもごく普通の人である」ということでした。お二人の見た目も、会話を通じて感じた人柄も近所のおばさんとあまり変わらないように思いました。むしろ出所後にやりたいことがあるなどポジティブな一面があり(フィリピン人は大抵ポジティブですが)、好感がもてる人柄です。Aさんは薬物、Bさんは強盗の罪でこの施設に入っていますが、「いかにも悪人」という感じは全くなかったので驚くと同時に少し拍子抜けしてしまいました。


そのあと、実際に刑務所内の色々な場所を見学させて頂きました(撮影NGのため残念ながら写真はありません)。

まず予想外だったのが、施設の衛生環境です。こう書くと「汚すぎて驚いた」のだと思われそうですが、実際は逆です。もうすごく綺麗。特にキッチンが清潔で、確実にうちの寮より上だろうと思いますね。
ちなみに、刑務所というと「檻」のイメージがありますが、部屋にはドアがあるだけで檻はありません。

ただ、そんなきちんとした生活環境の中にも問題はあるもので、中でも一番深刻なのが人数オーバーです。この施設は本当は1200人が上限なのですが、全国で施設の数が全く足りていないため現在約2000人(上限の1.7倍)が収容されています。そのせいで2人で一つのベッドを使っているところもありました。特に高温多湿のフィリピンでは多分そうとう暑苦しいだろうと思います。

印象的だったのは、施設のスタッフさんと収容者の方々がとても仲良さそうに見えたことです。もっとギスギスしているだろうと思っていたので衝撃的でした。見学中に見かけた収容者の人々も先ほどインタビューした二人と同じく、やっぱり町で普通に見かけるおばさんたちと何も変わらないように思いました。


さて、さすがに写真がゼロだと素っ気ないので、刑務所内で私が買ったお土産をご紹介します。これらはすべて収容者の方々の手作りです。


こちらはトイレットペーパー入れ。私はご存知のように青大好き人間なので迷わず青を選びました。


キーホルダー2つ。
右のものはフィリピンの国旗の形ですが、この左側の白いのはなんでしょう。




そう、卵に入ったヒヨコです!すごく可愛いと思いませんか?

私は普段こういった可愛い系のものは買わないのですが、これは思わず買ってしまいました。みなさんももしフィリピンの刑務所を訪れる機会があれば(あまり無いかもしれませんが)、ぜひお土産にどうぞ。



さてここからは、見学終了後に参加者全員で行った討論をもとに私が考えた二つの点について書きます。


一つ目は、「どうやったら『犯罪者』や『前科者』に対する偏見をなくせるのか」ということです。

前述の通り、収容者の方々はみんな普通でした。薬物犯罪や強盗だけでなく、所内見学中に見た大勢の人々の中には殺人犯も複数いたと思われます(殺人はフィリピンの犯罪トップ3に入るそうです)。ですが、少なくとも私が見た中ではあからさまに危なそうな人はおらず、むしろ見学しに来た我々に対して笑いかけてくれる人も多くいました。

被害者にとっては、自分を苦しめた加害者を許すというのは受け入れがたいことかもしれません。また、犯した罪はきちんと罰せられるべきだとも思います。
ですが、犯罪に至った背景にはどうしようもない事情があったということも考えられます。例えば、貧困のせいで生活が立ち行かなくなり強盗をしてしまったとか、抱えている問題から逃げるために薬物に走ってしまったとか。当事者ではない外部の人々にとって、犯罪者と呼ばれるその人がどういう人間なのか知るすべはありません。

にもかかわらず、私たちは犯罪者と聞いた瞬間に「自分たちとは全く違う生き物」というレッテルを貼ってしまいがちです。前科者の場合は出所したことで(少なくとも法的には)罪を償っているわけですが、「一度犯罪を犯した時点で人間失格」という考え方は根強いように思います。
フィリピンでもやはり前科者というとかなり印象が悪く、たとえ施設内のプログラムで技術などを身につけても、外の社会に戻ったあと普通に生活するのは難しいとのことです。

この施設では出所後のサポートまでは手が回っていないものの、こうして外部からの見学者を受け入れ、参加者に収容者一人一人の人柄や刑務所内の生活を伝えることで世の中の偏見をなくしていくことを目指しているそうです。周囲の理解が得られれば、出所後に普通の人と同じように生活しやすくなります。

こういった犯罪者の社会復帰支援活動は日本にも必要だと強く感じます。
おそらく私が知らないだけでもう既に色々な活動があるのでしょうが、犯罪者に対する強烈なバッシングの現状を考えるともっと進めていくべきだと思っています。


二つ目は、「罰を与えるために刑務所の待遇を悪くすべき、という考え方はおかしい」ということです。

討論の中で、「刑務所なのに外よりも環境が良いのでは収容者が反省せず、逆にまた罪を犯して戻ってきてしまうのではないか」という意見がありました。

確かに、刑務所の中はすごく清潔で整っていました(場所によっては私たちの寮よりも!)。それに比べると、前回の記事で書いた台風被災者の避難所や都市スラム、この後訪問した孤児院の環境の方が衛生面に関してはかなり劣っています。単純に住む場所としてどちらに住みたいか、と聞かれたらほとんどの人が刑務所を選ぶのではないでしょうか。

しかしそれでも、だから刑務所の環境をもっと劣悪にしようという議論は間違っているのではないかと思います。

まず、環境が整っているといっても、2人で1つのベッドを使っていたりと苦痛を強いられている部分もあります。決して過剰なぜいたくが行われているわけではなく、定員人数をオーバーしていることからするとむしろ本来の最低限の基準にまだ達していないと考えられます。
外の環境が刑務所よりも劣悪だとして、それは外の問題であってむしろそちらをどうやって良くしていくかを考えるべきではないでしょうか。
(……ただ、これは長期的には正論でも短期的にはただの綺麗事という感じもあります。特に財源のことを考えると、刑務所に回す資金があるならそれを孤児院に回すべき、という意見も一理あると思っています)

加えて、これは討論中に他の人が言っていたことですが、「刑務所の中にいる人たちは自由を奪われている。どんなに衛生面やプログラムが整っていても、自由が奪われていること自体の苦しみはなくならないし、それが充分罰になっている」とも考えられます。



この写真は、刑務所見学の後に我々が行ったレストランから見える風景です。
今回のツアーを企画した人(前述の寮のボス)は、「これが私たちに与えられている自由」だと言いました。
私たちは、いつでも好きな時に好きな場所へ行き好きなことをする自由があります。美しい景色を見て、気持ちいい風を感じながら友人と語り合うことができます。それを奪われることは確かに大きな苦痛であるように感じます。

それに、そもそも罰があるから反省するのではなく、自分のしたことについて自分で考えた結果自然と反省するのでなければ意味がないのではないか、とも思います。


上の二つの問題はどちらも人によって意見が分かれるところですし、一筋縄ではいかないだろうと思います。けれどやっぱり「罪を犯した人にもセカンドチャンスがある、またやり直せる」という社会の方が住みやすいし、そういう社会にしていきたいなと思っています。そのためにどうすればいいのか、という点はまだあまり考えがまとまっていないのですが……。これからも考えていきたいトピックの一つです。


なんだか意見部分がかなりの長文になってしまいました。ここまで読んでくださってありがとうございます。
ではでは、また。