2019年4月3日水曜日

緊急人道支援NGO駐在員の仕事【バングラデシュ難民キャンプ】

皆様お久しぶりです。2月中どころか気づけば4月に入ってしまいましたが、いかがお過ごしでしょうか。
私はというと仕事で色々とあるのに加えて、先月猫に引っ掻かれて狂犬病ワクチンを追加接種する羽目になる(詳細はツイッター参照)など、波乱万丈な感じの日々を送っています。

さて今回は、というより今回もバングラデシュ事業の話です。ただし前回は主にデスク担当のことを書いたのに対して、今回は現地駐在としての仕事内容について書きます。

(バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプの様子)

私の所属している部署は「緊急人道支援」をメインで行っています。緊急人道支援とは、災害が起こった際にその被災者に対して行う支援活動のことを言います。
この災害には紛争(人災)と自然災害の両方が含まれます。また、災害発生直後の活動もあれば、数か月や場合によっては数年経過している地域での活動も含まれます(「緊急」という言葉のイメージからはズレていますが、例えばシリアなどは8年以上紛争が続いているためずっと緊急人道支援から抜け出せずにいます)。一口に緊急人道支援といっても国や事業によって内容が大幅に変わるため、ここに書くのはあくまで一例として考えてもらえればと思います。

バングラデシュ事業は、2017年8月に起こったロヒンギャ難民の大流出を受けて立ち上げられました。隣国ミャンマーのラカイン州というところでミャンマー軍と少数派のロヒンギャ族過激派が衝突したことをきっかけに軍によるロヒンギャ族への弾圧が行われ、60万人以上の人々が難民としてバングラデシュのコックスバザール県へ押し寄せることになりました。

この事態を受け、私の所属団体は現地の医療団体と提携して、まずは巡回診療を開始しました。難民キャンプ内の居住エリアを回り、屋外に椅子と机を並べて診療するという活動です。それからしばらくして、診療所の建設と運営も始まりました。
私は9月の立ち上げ時からデスク担当(*)として携わっていましたが、12月に駐在の方が一時帰国することになり、初出張で一か月間現地へ行くことになりました。
(*)デスク担当の仕事内容については前回の記事参照。

難民キャンプに行くのはこれが初めてでしたが、「家がものすごく密集している」というのが第一印象です。
大流出よりも前から逃れてきていたロヒンギャの人々や元々その土地に住んでいるバングラデシュ人の人も含め、キャンプ全体で100万人以上が生活しています。簡単な店や市場もあって、一見にぎやかな普通の村のようにも見えます。ですが、治安を管理するバングラデシュ軍やたくさんの国際NGO・現地NGOの姿が見えるという点は普通の村と異なります。

(家がひしめき合っている様子。ここだけでなくキャンプ内の多くの場所がおおよそこんな感じです)

もともと森だったところを伐採して急ごしらえでキャンプが作られたので、土砂崩れの危険があり土埃もすごいです。エリアによってかなり環境が違っていて、比較的整備されているところもあれば場所によっては水衛生が全く整っていないところもありました。
これだけの数の人々に対して自分にどれだけのことが出来るのか、ということを考えながら、目の前の仕事に奔走するうちにあっという間に出張期間が過ぎていきました。


その後日本に戻ってまた数か月間デスク業務を行ったのち、昨年5月から駐在としてバングラデシュに赴任しました。この頃になると出張時に比べて多少キャンプ内の環境が整ってきているようでした。緊急人道支援の活動には色々な時期のものが含まれると冒頭で書きましたが、どのフェーズの活動かによって事業内容も個々人に求められるものも違ってきます。
災害発生直後は混乱した状況の中でとにかく大量のニーズに迅速に対応することが求められますが、発生から半年以上経過したこの時期では、長期的・安定的に活動していくための基盤を整えること、また活動自体の質を上げてより細やかなニーズに対応することが要求されます。

駐在としての仕事内容は色々とありますが、一言で言えば「事業運営」です。もう少し詳しく書くとおおよそ以下のようになります。

・現場視察 
・各種報告書作成・会計管理
・ニーズ調査、新規事業立案/事業拡大
・調整会議への出席 

この中で、「調整会議」という言葉はあまり馴染みがないのではないでしょうか。
緊急人道支援の場合、災害が起こった後に様々な支援団体が一斉に被災地に入ることになりますが、そうすると当然支援内容が被ったり逆に不足する領域が出てきます。そうした事態を防ぎ、かつ迅速に支援を行うために、それぞれの団体の活動内容をお互いに把握して調整するための会議が行われます。それが調整会議です。医療・水衛生・食料・住居といった活動の分野(セクター)ごとに行われることが一般的です。私は医療と、その下部セクターであるメンタルヘルスの調整会議によく出席していました。
バングラデシュの難民キャンプに関する調整会議の内容は以下のサイト上で一部公開されているので、関心のある方は閲覧してみてください。
https://www.humanitarianresponse.info/en/operations/bangladesh


(これはイメージ画像です。会議の種類にもよりますが実際はもっと多くの人が参加しています)

この調整会議を通じて、自分の事業からだけでは得られない様々な情報を得ることが出来ます。広大なキャンプの中のどの地域に、またどの人々(年齢・性別等)にどんなニーズや課題があるかを知ることで自分たちの活動に活かすことができ、新規事業を考える手掛かりにもなります。また、ビザやセキュリティなどについての情報も得られます。

そんな有益な会議ですが、約半年間出席した感想はというと。
難易度たっか!!!
この一言に尽きます。
もうね、まず英語が速すぎるんですよ。会議の参加者は国連機関か大手NGOのスタッフがほとんどで、常日頃から英語で仕事をしている人達なわけです。それに加えて私は専門知識もない状態で飛び込んだので、初めの頃はついていくだけで至難の業でした(というかスライドや議事録が無かったら詰んでいました)。

ちなみに、会議で使われるのはベンガル語でも、ましてキャンプの住民間で使われているチッタゴン方言やロヒンギャ語でもなく、圧倒的に英語です。これはおそらく複数の国際NGOが入るような現場であればどこも同じです(フランス語圏を除く)。災害発生後すぐに支援を開始することになるため、支援団体スタッフが現地語を習得する時間がないからです。事業を実施する際は英語のできる現地スタッフを雇用するか、提携団体の英語のできるスタッフを通じて意思疎通をすることになります。

現地語を習得せずに英語で仕事ができるのは便利な一方で、会議が早口の英語で行われ、また多くの場合外国人(バングラデシュ人以外)がリードするため、現地の中小のNGOが排除されているようにも感じました。実際会議に出ているのは国際NGOか大手の現地NGOがほとんどで、現場で見かける中小の団体はあまり出席していなかったように思います。
……まあ、結局そう思ったところでそういう意見を出して変えていくためにはもっと発言力をつけないといけないし、そのために英語や専門知識をもっと磨いていかないといけないわけですが。(私本当に英語好きじゃないんですけどね……)。
緊急人道支援を志す方は、もう耳にタコだとは思いますがやっぱり英語は必須なのでお互い頑張っていきましょう。
(2019/4/3追記)
同業の方曰く、緊急人道だけでなく開発分野でも調整会議は存在するそうです。そしてそちらも英語(又はフランス語)で行われるとのこと。なんか余計世知辛い……。まあ語学苦手な人間にとっては現地語覚える方が大変なので良いっちゃ良いんですが。英語サボりがちなのでもっと頑張ります。。。
(追記終)

ここまで書いて、「そもそも医療分野の事業なら患者さんを診たりするのが一番の仕事なんじゃないの?」というもっともな疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
結論から言うと、私は医療従事者でないので医療行為は一切していません。実際の診療については、現地の医療事情にも詳しいバングラデシュの医療団体が担っています。また、医療以外の活動、例えば今担当している水衛生分野の活動であったとしても、実際に給水活動や工事などを行うのは主に現地スタッフの仕事です(フェーズや事業内容によるので一概には言えませんが)。

現地駐在は実際に体を動かして働くというよりは、それをチェックしてマネジメントすることが仕事になります。いわゆる管理職のような立場です。管理職であるため、提携団体や現地スタッフ、支援対象の人々、同業の他団体、現地の行政や軍などなど、多数いる関係者間を調整する力が重要だと感じます。また、事業全体を見渡して足りないところやもっと伸ばすべき部分を見極めて実行に移す決断力も大事だなと。自分の手で事業を回せる、状況の変化に応じて自分で判断して動けるというのは現地駐在の大きな魅力の一つだと思います(そういう意味では起業家に少し近いかもしれません)。

ただもちろん、管理職とはいっても現場を見ないというわけではありません。セキュリティの問題で入れない事業地を除いて、基本的に現場にはよく足を運ぶべきと言われていますし、やっぱり現場を直に見れることは駐在の良いところです。それこそ難民キャンプなんてこの仕事に就かなければ縁のない場所であって、それを自分の目で見て知ることでたくさんの気づきを得ることが出来ます。将来的に本部部署で働くことになったとしても、現場経験が有るのと無いのとでは仕事の結果もかなり違ってくるだろうなと思います。

そうして約半年間バングラデシュ駐在として過ごしたのち、インドネシアでの事業が人手不足だったことなどの理由で11月からそちらの担当となりました。今も駐在としてロンボク島に滞在しています。
同じ現地駐在といっても、こちらの事業は開発寄りの活動なこともあってかなり仕事内容が異なります。今回書いたことも、一部は当てはまりますが当てはまらない部分も多いです。そちらについてはまたの機会に。