2023年11月18日土曜日

NGOと開発コンサルはどう違うのか【事業規模、活動地域、etc.】

  急に冷え込みが厳しくなった今日この頃ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は最近ようやく転職先が決まり、新しい職場で働き始めたところです。転職活動ほんとに長かった……

 なんでそんなに時間がかかったのか、とか新しい会社(NGOではなく企業に転職しました)はどういうところなのか、とか説明し始めると長くなるのですが、そのあたりの話はまた別の機会にしようと思います。

 タイトルにある通り、NGOと開発コンサルティング企業の違い」が今回のテーマです。実のところ転職先はNGOでも開発コンサルでもないのですが、転職活動中に開発コンサルについても色々調べたのでせっかくなら共有したいと思った次第です。なお、主なソースは知人への聞き取りとインターネット検索になります。

 国際協力のアクターはNGOと開発コンサル以外にも色々ありますが、今回この2つを取り上げたのは両者が以下のような共通点を持っているからです。

・民間の組織

・現場での仕事が多い

・支援事業を行っている

 ここで「支援事業」と呼んでいるのは「サービスの受け手から代金を取らない事業」という意味です。開発コンサルがJICAと契約して得る資金は会計上で事業収益にカウントされますが、その資金はODAから出ており、現地の人々から対価を得ているわけではありません。この点で開発コンサルが主として行う事業は民間のソーシャルビジネス企業と内容が異なっており、むしろNGOに近いといえます。

 このように似ている両者ですが、使っているスキーム(資金源)やそれによる制約、事業内容の傾向といったいわゆるビジネスモデルについては色々な違いがあるようです。NGOや開発コンサルに関わる/将来目指している方々のお役に立てば幸いです。

(*)私の所属していたNGOは日本に本部を置く日系NGOなので、この記事でも基本的には日系NGOを念頭においています。海外アライアンス系の大規模NGOなどは事情が異なるとも聞くのでご注意ください。

また、今回は内容が多岐にわたるので目次を作りました。以下から興味のある項目に直接飛べます。



(旅行で行った銚子の海。無職期間を使ってしっかり充電。)

事業規模の違い

 「NGOと開発コンサルの違い」と聞いてまず真っ先に思い浮かぶのはこれではないでしょうか。NGOは比較的小規模な事業を行い、大規模な事業は開発コンサルが行う、というイメージを持つ人は多いと思います。実際は例外も多いので必ずしもそうとは言い切れませんが、少なくともダムや幹線道路、港湾、発電所といった巨大なインフラの建設は開発コンサルの領分と言えます。開発コンサル企業のなかでも、日本公営やオリエンタルコンサルタンツなどのいわゆる「ハード系」と呼ばれる企業がこうした大規模建設案件を受注しています。

 一方で、インフラ建設に強いと言われるNGOも存在します。実を言うと私の前々職がまさにそういう団体でした。しかしここで言うインフラとは井戸や貯水タンク、個人の住居などで、カバー範囲は村1つ分あるいは難民キャンプ一区画分くらいの規模感です。これでも日本のNGOが行う事業としては大きいですが、上述の巨大インフラのように一つの都市や国全体をカバーするようなものではありません。「インフラ」という言葉は同じでもその内容はかなり異なっています。

 この違いは事業予算の金額にも表れています。巨大インフラ建設は「有償資金協力」または「無償資金協力」という制度を使って行われますが、それら事業は多くが数十億円以上、場合によっては一千億円を超えるものもあります(*)。ただし、後で詳しく見ますが開発コンサルは事業の全てを担うわけではなく一部の業務をJICAから委託するという形のため、事業予算全額を一つの企業が使えるわけではない点は注意が必要です。一方でNGOの事業は一事業あたり大きくても数億円、大半は数百万~数千万円程度となっています(**)

 とはいえ、上記はハード系事業に限った話であり、ソフト系事業では予算金額とカバー範囲は必ずしも一致しません。例えば相手国の政府職員に対する能力強化研修などはソフト系事業に含まれますが、こちらは巨大インフラ建設よりも少額で実施可能な一方、政府職員の能力向上による好影響は国全体に及ぶこともあります。JICA事業のなかでは「技術協力」という制度がこれに相当し、アイシーネットなどソフト系の開発コンサルが主に実施しています。NGOが技術協力事業のコンサルティング契約を受注することも可能で実例もありますが、どちらかというとレアケースに留まっています。

(*)以下のリストで有償資金協力・無償資金協力事業の予算規模を確認していますが、全事業をチェックしたわけではありません。https://www.jica.go.jp/oda/index.html

(**)こちらも全てのデータを確認したわけではないですが、少なくとも私のいた日系の2団体ではそうでした。また、外務省やJICANGO向けに出している助成金(NGO連携無償/草の根技術協力)はどちらも上限が1億円となっています。

(ケニア北西部の道路。この道路はおそらく違うが、日本の支援で建設された道路は世界に数多くある。)


カウンターパートの違い

 NGOと開発コンサルでは、仕事のなかで日頃やり取りする相手が異なります。開発コンサルの場合、ハード系・ソフト系を問わず主に相手国政府の中央官庁または地方行政府(郡・県など)の職員がカウンターパートとなっており、現地の住民や住民組織と一緒に働く機会はほぼないと聞いています。これは、JICA事業の予算規模が比較的大きいことや、その案件形成が相手国政府の要請によって行われることによるものです。

 一方、NGOはより草の根の事業を得意としているため、駐在や出張で現地に行くことが出来れば住民と関わる機会は沢山あります。私自身がこれまで駐在した3つの事業地では、裨益者(サービスの受け手)である住民の方々に話を聞くだけでなく、彼らの一部をスタッフとして雇ったり、住民組織と協働したりするなど、共に事業を進めていくという場面も多くありました。

 多くのNGOはこのように住民密着型の事業を行っていますが、NGOが相手国の政府レベルを巻き込んだ事業を実施することも不可能ではなく、実際そのような例も聞いています。ただし、その場合NGOは自力で現地政府と関係を構築しないといけません。開発コンサルの場合は日本政府と相手国政府間の契約に基づいてJICAが事業を形成してそれを受託するという流れになるため、一から関係を築く努力をしなくてもよいことになります。


危険地域での活動の違い

 治安の悪い地域で活動できるかどうかは、NGOと開発コンサルの大きな違いです。「途上国はどこも治安が悪い」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実際は国によってかなり異なり、また一つの国のなかでも地域によって様々です。外務省は危険度区分をレベル0~45段階で定めていて、例えばケニアだと以下のようになっています。

出所:https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2022T109.html#ad-image-0

 図中の明るい黄色がレベル1、薄いオレンジがレベル2、濃いオレンジがレベル3、赤がレベル4です。数字が大きいほど危険度が高いことを示しています。北東部の治安が悪く、特に東端のソマリア国境沿いが危険とされていることが図から見て取れます。

 開発コンサルの場合、事業の発注元であるJICAの基準に則ります。JICA基準は日本政府機関の中でも特に厳しいと言われており、例外はあるものの基本的にはレベル1までしか行けない(*)とのことです。ですので激しい紛争地はもちろん、私が駐在していたカクマのあるトゥルカナ郡(レベル2)への渡航も難しいと言えます。

 一方、NGOODA資金を使っている場合は渡航制限が付きますが(**)、私の実感としてレベル2までであればそこまで煩雑な手続きなど無しで入ることができます。レベル3になると渡航の必要性の有無や滞在期間など厳しく見られるようになりますが、それでも条件をクリアすれば渡航できなくはないです。ただし、実際に情勢の不安定な地域に邦人を送るかどうかはその団体の判断によります。そうした地域での安全確保のノウハウがあることが前提になりますが、加えて団体のカラーも大きく影響します。できる限り邦人スタッフを現地に送ろうとする団体もあればあまり積極的でないところもあり、NGOに入れば確実に現地に行けるというわけでもないため、就職を考えている方は事前に確認されることをオススメします。

 また、いずれにせよODA資金ではレベル4地域への渡航は不可能なので、そうした地域で事業を実施するには寄付や他の助成金などで資金を獲得するか、邦人を派遣しない形での事業を組み立てる必要があります。例えばソマリアは全土がレベル4ですが、寄付等の財源を使って現地で活動しているNGOもあります。また、JICAのソマリア事業は相手国政府の要人をケニアやウガンダなどの近隣国に招聘して彼らに対し研修を実施するという形で行われており、そこに開発コンサルティング企業も関わっています。このような事業であればJICAの安全基準でも実施できます。

(*)正確には、レベル2まではJICA事務所と担当者によっては交渉次第で入れる可能性があるが、レベル3以上は不可(少なくとも前例が知られていない)とのことです。(2023/11/19追記)

(**)NGOの渡航制限についてより詳細な内容に追記・変更しました。(2023/11/19)


「開発」と「緊急」について

 これは私自身NGOに就職するまであまり意識していなかったのですが、「開発支援」と「緊急人道支援」はその目的や進め方が異なります(*)。開発支援はその国や地域の社会全体が長期的に発展していくことを目指しているのに対し、緊急人道支援は災害や紛争を受けて今まさに生命の危険にある人を助け、最低限以上の水準の生活を営んでもらうことを目指しています。そのため、開発支援事業は長期にわたって色々な要素を勘案しながら関係者間で合意を取りながら進めていく一方、緊急人道支援事業はスピード命で目に見える成果(物資配布数、住居建築数など)を追求する傾向にあります。 

 開発コンサル企業はその名の通り開発支援を行う企業ですので、緊急人道支援は基本的に対象外になります。NGOの場合は各団体により異なり、どちらかあるいは両方を行っています。日本ではジャパン・プラットフォームというところが緊急人道支援NGOへの助成を行っているので、ここの加盟団体一覧を見るとどんなNGOが緊急人道支援を行っているかがわかります。また、赤十字や緊急援助隊なども緊急支援の重要なアクターです。

(*)とはいえ開発支援と緊急人道支援は明確に分かれるものではなく、むしろ両者をどうすれば上手く繋げられるかが業界内ではずっと議論されています。

(ケニア北西部で見たラクダの群れ)


事業企画ができるかどうか 

 「事業を企画できるかどうか」(少なくとも制度的に可能かどうか)(*)という点もNGOと開発コンサルの大きな違いです。言い換えると「どういう事業をやるか自分で決められるかどうか」ということです。

 それは当然できるだろうと思われるかもしれませんが、開発コンサル企業の場合は難しいことがほとんどです自分たちだけで一から十まで企画をするということはありません(*)。というのも、JICAがすでに作成した事業計画があり、開発コンサル企業はその実施業務をJICAから受注するという仕組みになっているからです。JICAが作成した事業計画書に対して改善案を提示することはあり(*)、また事業を実施しながら現地の状況にあわせて修正することも出来ますし、そこに開発コンサルタントの専門性が求められているわけですが、例えば事業目的や事業目標を変えるというような抜本的な変更は出来ません。逆にJICAは現場での事業実施に深く関わることはほぼ無いと聞きます。つまりJICAが企画、開発コンサルが実施という分業体制が敷かれているわけです。「企画ができない」というとネガティブに聞こえますが、日々の事業活動に集中してその専門性を磨きたいという人にとっては開発コンサルが向いていると言えそうです。

(参考:https://jica.go.jp/about/announce/beginner/activities/index.html

 ちなみに、事業計画を策定する前の調査案件というものがあり、それを開発コンサルが受注することもあります。この場合は開発コンサルが事業企画に深く関わっているといえますが、そうすると逆にその事業を実施する際の入札には参加できないため、いずれにせよ一つの事業の企画と実施両方はできないようです。

 NGOの場合はNGO自身が事業内容を決めるので、企画と実施が一体になっています。助成金を使う場合はドナーの意向が影響しますがそれでも事業内容を決めるのがNGOという点は変わりません。ただ、じゃあNGOなら自分たちの目的に沿った事業を自由に立案・実施出来るかというと経験上そうでもないことが多く、その団体とポスト次第という印象です。

 例えば私の前々職のNGOのケニア事務所は国代表が事業企画を主導していて、本人の手腕の高さもあり比較的上手くいっていました。このようにNGOに入って事業の企画から実施まで一貫して主導するのも不可能ではありませんが、あくまで裁量権のあるポストを取れればの話である点は注意が必要です。活動のための十分な資金があるか、または自分でそれを取ってこれる腕があるかも重要になります。

 絶対に企画をやりたい、あるいは企画だけがしたいという場合は、NGOや開発コンサルよりもJICAが良いと言えそうです。特に在外の企画調査員は名前の通り事業企画が仕事で、一定の裁量を持って事業の企画が行えるとのことです。ただし、JICA事業はそもそも相手国政府の要請に基づいて行われるため、事業の必要性や有効性を政府の担当者に認めてもらい、彼らの側から要請を出してもらう必要があります。

(*)頂いたコメントに基づいて表現を加筆修正しました。(2023/11/19)


働き方や待遇など 

 私の知る限り、待遇については各団体やポジションによるため一概に言えません。NGOの給与は低いとよく言われますが団体によってはそれなりの額が出ますし、逆に開発コンサルに転職したら給与が下がったという例もあると聞きます。職位や専門性の有無によっても変わってくるため、これについては自分の能力と募集状況を照らして判断するしかなさそうです。労働時間やワークライフバランスについても同様です。

 一方で、内部の人材育成制度については開発コンサルの方が整っているようです。 NGOも開発コンサルも即戦力を求める傾向にありますが、後者は新卒採用をしている企業が多いこともあって人を育てる意識があるとのことです。(これについてはもっとNGOも見習った方が良いのでは、と個人的には思っています。。。)

 また、JICAが開発コンサル企業を選定する際にコンサルタント個人の経験年数を重視していることから、開発コンサル企業の評価制度は年功序列的な側面があると聞きます。ただし、JICA基準とは別に内部での職位を設定してそちらは能力重視にしている企業もあり、また若手のうちから事業内容に深く関わる業務を任せることもあるため千差万別とのこと。NGOも裁量権は団体とポジションによりまちまちです。

 駐在の有無について、開発コンサル企業の場合は基本的に出張のみで駐在はないとのことです。ただし1回の出張が数週間~1ヶ月くらいあり、また複数案件を掛け持つためそれらを合算すると1年のうち半年以上海外にいるというケースが多いようです。開発コンサル企業からJICAへ出向する場合は現地駐在もありますがそれはレアケースとのこと。

 NGOはポジションによって駐在も出張もあり得ます。こちらの事情を聞いてもらえるか事業の都合によって派遣が決まるかはその団体次第となります。上述したようにあまり現地へ人を送っていない団体もあり、その場合は出張すらなかなか行けないこともあります。逆に日本をベースに働きたい人が積極的に邦人を外に出している団体に入ってしまってもミスマッチになるので、自分の希望と合っているか見極める事が重要です。

(バングラデシュの難民キャンプ。邦人派遣に積極的な一つ目のNGOでは、3年半で3事業地の駐在を経験した。)

収益事業について

 ここまで支援事業を念頭にNGOと開発コンサルの違いを見てきましたが、最後に収益事業についても触れておきたいと思います。ここで収益事業とは「サービスの受け手から代金を受け取る事業」を指します。味の素の栄養サプリメントやサラヤのアルコール消毒剤など、製品の販売という収益事業が途上国の生活改善に繋がっている事例は沢山あります。

 まず開発コンサルティング企業については、営利企業ですので収益事業を行うことになんの制限もありません。コンサルティング企業という特性から、自社で直接事業を行うよりも、海外で自社製品を販売したいと思っている日本企業に対して市場調査や営業戦略提案などのコンサルティングサービスを提供することが多いです。JICAにも民間連携というスキームがあるため、これを受注する形で実績を作り、そこから営利企業との直接契約に繋げています。

 次にNGOについて。「特定非営利活動法人」という法人格であることから(*)収益活動は出来ないと誤解される事が多いですが、実を言うとNGOも収益事業を行う事が認められています(収入に占める寄付の比率の下限などいくつかの条件あり)。収益事業を行いその収入で固定費を賄うことが出来れば財務が安定し、活動の幅も広げることが出来ます。

 しかし、実際のところNGOで収益事業を上手く行っているのはレアケースで(**)、まして固定費を全て賄うことに成功している団体というのは聞いたことがありません。例外として、ビル・ゲイツ財団や笹川平和財団といった財団は営利事業から得られた利益を元に創設・運営されていますが、営利事業と支援事業が基本的に切り離されているので「収益事業で成功しているNGO」とは違うタイプと言えそうです。

(*)NGOは「非政府組織」で、「非営利法人」はNPOなので厳密には異なる概念ですが、日本のNGOの多くは法人格としては認定NPO法人です。詳細はこちら参照。

https://nponews.jp/article/npo-ngo/

(**)国際協力NGOの資金調達状況についてはこちらの報告書が参考になります。

http://kansaingo.net/kncnews/jigyo/20230407.html

 

 最後に、今回調べるうえで役立った資料を紹介します。

 一つ目は国際開発ジャーナル社の発行する『国際協力キャリアガイド』です。特に開発コンサル企業について一社ごとに紹介されているので、それぞれどんな特色や強みがあるのかを把握するのに役立ちます。アマゾンなどで購入可能です。

 もう一つは、『国際協力をしごとに。』というサイトです。開発コンサルとNGOを経験したクオッカ氏という方が運営されていて、それぞれの仕事内容や必要スキル、転職のコツなどが詳しく説明されています。JICAや国連を扱った記事もあります。

https://www.quokkablog.net/

 

 以上、NGOと開発コンサルの違いについて長々と書いてきました(過去最長を更新してしまったので次回はもう少し短くまとめられるように頑張ります。。。)。なるべく裏取りをするようにはしていますが、もし間違っている点などあればどんどん指摘してもらえると有り難いです。それではまた。

 


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